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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)277号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士植月浅雄、同塚本重頼の上告理由第三点について。

不動産登記法四四条にいわゆる「登記済証が滅失したるとき」とは、登記済証が物質的に消滅したか又は紛失のため一時所在の判明しないような場合をいうのであつて(大審院昭和八年(ク)第九三一号、同年七月四日決定、判例集一三巻一七七六頁参照)、原判示のような事情で登記済証が売主より別個の売買に基き第三者に交付せられそれが現に第三者の手裡に存し売主はたやすくこれを取り戻すことができないと認められるような場合をも包含するものと解すべきではない。

従つて登記済証が第三者の手裡に存する場合に、同法三五条により提出すべき登記済証に代えて同法四四条所定の保証書を添付してなされた登記申請は違法のものと云わなければならないが、一旦保証書による登記申請が受理せられて登記がなされた以上は、それが実体的権利関係に合致するかぎり、登記申請の形式的瑕疵は治癒せられて該登記は有効となると解するのが相当である。本件において、原審の確定した事実は、訴外堀竜之介は、その所有にかかる本件土地を昭和二七年六月六日所有権移転登記は同年八月末日になすべき約で上告人に売り渡し、すでに同人に登記済証を交付してあつたが、堀は同年八月一一日重ねてこれを被上告人に売り渡し、被上告人はいち早く同月一四日保証書によつて本件登記をしてしまつたというのであるから、右保証書による登記申請は違法であると云わなければならないけれども、これによつてなされた登記は実体的権利関係に合致すると云うことができるから、登記申請の形式的瑕疵は治癒せられたものというべく、右登記を有効と解した原判決の結論は結局正当であつて、論旨は採用するをえない。

その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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